KSK 八木山の住宅
「八木山の住宅」は、最初の構想から完成するまでに、5年近くの歳月を費やしました。何度も考え直しては、図面を書き直し、模型を作り直しましたが、振り返ってみれば、実現出来たのは、たったこれだけのことです。特別な材料を使っているわけでも、特別なことをしているわけでもありません。
しかし、わたしにとってもっとも思い入れの深い住宅です。
「八木山の住宅」は、元からあった庭を中心に設計を進めました。庭を取り巻く空間を壊さないように建物を低く抑えてあります。この写真で地上に見えているのは、実は2階の部分です。1階はこの下に埋め込まれています。堀のようにオープンカットしたその下に、プライベートな空間が隠れています。(しかし、平らな土地をわざわざ掘ったわけではありません。元の地形が緩やかな南斜面でありました。
庭に面したデッキは上段の幅が「2.4m」あり、庇の出寸法と揃えています。2.4mという寸法は慎重に選びました。
「夏の日射」「冬の日射」「雨に濡れずにゆったり使えるデッキの最適な寸法」に「庇先端の高さ」を掛け合わせて、考えました。一般的にこうした寸法としては「一間(1.8m)」が良く使われますが、もう一越え、ゆったりした感じを目指しました。「下段のブリッジ部」は更に庭に向かって伸びています。
玄関扉をあけると、真正面に保存緑地の雑木林が借景出来ます。真正面には立派な枝振りの山桜があります。その左脇にはモミジが自生しており、春と秋には見事な景観を与えてくれます。
この建物では、こうした視線の通り抜けを意識して、何重にも構成しました。行き詰まりがなく、自然の中に視線の延びて行く伸びやかな空間を、と考えていました。
上の写真から真っ直ぐにリビングに入り、左手に見える風景です。この写真の左側には大開口のサッシュがあり、デッキ、メインの庭とつながっています。
窓は、それが窓だと意識された途端に「わざとらしく、かっこ悪く、自然でない」ものになってしまうものです。だからといって大きく、外の風景を取り込めばよいかといえば、そういうものでもありません。風景の切り取り方にはかなり神経を使いました。