向島mh
東京下町、向島に建つ夫婦と4人の子どものための木造3階建て住宅。
向島には人情味溢れる町なみ、近所付き合いやお祭りなど、下町らしい雰囲
気がまだまだ残っている。設計依頼を受け、向島・曳船・京島と敷地界隈を
随分と歩き回った。細い路地に溢れんばかりの植木鉢、下見張りの木造長
屋、青トタンの町工場、格子窓の老舗料亭、物干し台の洗濯物、大衆酒場の
土間・・・・・。下町らしいデザインの発見がいくつもあった。
この住宅ではそのようなデザインを再考
し、町と住まいの関わりを考えながら設
計に取り掛かった。1階は夫婦の場、2階
は子どもたちの場、町なみを意識し道路
からセットバックさせた3階はみんなが
集まる場所、そして屋上には花火台。
狭小密集地の敷地は3方を隣家に取囲まれている。そのため光の筒と見立てた螺旋階段を、プランの中央に1階から3階、屋上まで突き通し各階に光と風を確保し
た。
1階には大きな土間がある。外のようで
内、内のようで外・・・・・中間領域と
しての土間。下町では細い路地一杯に植
木鉢が並べられ、道路も住まいの延長と
して私的な使われ方がされている。
ここでの土間も全開可能な格子戸で仕切り、路地が内部に入り込んだような曖昧な空間としている。土間は、趣味の日曜大工や子どもたちの遊び場となり、時にはご近所さんが立ち寄る場ともなる。室内は格子越しに緩やかにまちと繋がる。そして夜には格子から光が漏れ、道行く人たちの行灯となる。
土間・格子・下見張りといった下町らし
いイメージを現代の住宅に生かしたいと
考えた。しかし下町はもともと密集地で
もあり、法的規制が厳しい。木部はボー
ドで覆う耐火建築物としなければならな
い。法的条件をクリアするためには、さ
まざまな手続きや裏技が必要となった。
住みよさや安全のための法律のはずが建
築を不自由にし、結果どこにでもあるよ
うなペラペラ建物に建替えられ下町らし
さは崩れてゆく。
町なみを維持するためには、住む人と行政が一体となり法的なところから見直していかないと難しい・・・・・などと屋上の花火台で隅田川の花火大会を観ながら考えた。