相模原の家
水鳥は悠然としているようで見えない水面下で必死に水を掻いていると、よく例えの引き合いにされます。
住宅も同じで、結果として望ましい状態で整然としている場合、その度合いが高いほどそこに至るまでの労苦が想像以上に潜んでいます。
住宅の間取りや形態には通常望ましいとされる”有り様”があります。居室は南面していて、夏の陽射しを避ける程度に庇が出ていると省エネで気持ちが良い。食卓には朝日があたっていると朝食がさわやかに迎えられる。子ども室に通じる階段は居間を通っていて欲しい、等々。
しかし、敷地や予算などの条件で通常それが適わなく、設計者は何らかの工夫でその望ましい状態に準じたあり様を実現していきます。
工夫がないままに羅列しただけの住宅は凡庸になり愛着が持てなくなるものです。
今回の住宅は敷地の条件に恵まれ、間取りを望ましい状態にすることは技術的には可能でしたが、同時に選択肢が多くもあり、最善の有り様を見極めるための水面下の水掻きは多くなりました。
食堂、厨房、食品庫、階段、ロフトを一つに包み込んでいる屋根の一本の隅木がその水掻きの回答の一つで、これがこの家の特徴を生むこととなりました。